鹿児島市で昨年6月、高齢夫婦を強盗目的で殺害したとして、強盗殺人などの罪に問われた無職白浜政広被告(71)の裁判員裁判の判決で、鹿児島地裁(平島正道裁判長)は10日、「犯人と被告の同一性は希薄で、検察側主張は破綻している。この程度の状況証拠では、犯罪事実を認定できない」と述べ、死刑の求刑に対し無罪を言い渡した。死刑求刑された裁判員裁判での無罪は初めて。

 白浜被告は捜査段階から一貫して無罪を主張。公判では被告に直接結び付く証拠がなく、現場の指紋と細胞片のDNA型が被告のものと一致した点を柱とした状況証拠の評価が焦点だった。

 判決は現場となった被害者宅の状況について「室内のたんすに金品が残されており、強盗であったか疑問。被害者の顔を100回以上殴るなど、およそ強盗目的とはそぐわない」と指摘。凶器となった金属製スコップから被告の指紋やDNA型などが採取されていない点も不自然とした。所持金を使い果たしたことを動機とした検察側主張に関しても「重大犯罪に及ぶほど経済的に追い詰められていたとは言えない」と退けた。

 被害者の部屋の整理たんすや網戸などから検出された被告の指紋や細胞片のDNA型鑑定については、「鑑定は信用できるが、被告が網戸を触った事実を推認できるにとどまる。指紋も被告がたんすに触れた後、別人がたんす周辺を物色した偶然の一致も否定できない」と認定。捜査段階での現場保存が不完全だった点にも触れ、「真相解明のための十分な捜査が尽くされたか疑問が残る」と捜査を批判した。

 その上で、「犯人と被告の同一性について、検察側主張はもはや破綻している。この程度の状況証拠では犯罪事実を認定することはできない」と述べ、「刑事裁判の鉄則に照らし無罪にする」と結論付けた。